強い心

 心を強くするには体を強くしなければ駄目だ、という考えが、今から五十年前にはあったな。こういう言葉があった。「健全な肉体にあらずんば、健全な精神宿る能わず」。よくない言葉だよ。もしも健全な肉体でなければ健全な精神が宿らないならば、体の丈夫な奴は、みな心が強いはずであります。ところが真理は厳粛です。

 その体てぇものは、心が強くなければ決して強くなれない。心をおっぽり出しておいて、心はどんなに神経過敏でも、肉体だけがどんどん強くなるてぇことは絶対にない。健全な肉体は健全な精神によって作られるのであって、健全な肉体によって精神が作られるのではない。

 もうひとつ千歩ゆずって、体が強ければ心が強くなるとしましょう。そんな心が頼りになりますか。なぜかといいうと、体が強い間だけの強い心だもの。体が弱くなってしまうと、心も弱くなってしまう。そんな心ならあってもなくても同じじゃないか。ふだん、つね日ごろ、なんでもないときにはなんでもなくてよいのであります。体が丈夫で、どこもどうもないときには、心が弱くても強くても関係ない。病や運命の悪くなったときに、それに負けない、打ち負かされない、しいたげられない強さと尊さをもった心がほしいのです。その心は体を当てにして作ったのでは作れません。