残心

 得意感を心が感得した際は、たいていの人がたちまち有頂点になって、その結果として心の備えを緩めがちである。そして、心の備えを緩めると、それが誘因となって運命や健康上に、往々にして軽視することのできない破綻をひき起こすことが、事実的にすこぶる多い。

 これをもっとハッキリ理解するには、武道のほうでいう「残心」ということを、正しく考察することが最もよいと思う。「残心」とは、闘い終えたときの心構えということを意味するのである。すなわち、闘い終わったときも闘う最中と同様、かりそめにも安易に心を緩めるなかれということなのである。

 特に勝利を克ち得たときは、この心構えを厳重にすべしと戒めている。なぜならば、誰でも勝利を得ると、勝った!という得意感=安心感が即座に心に生ずるものである。すると同時に心の備えに緩みが生じて、武道家の最も怖れる隙というものが付随して生じるからである。

 この隙というのは、心理学的にいうと、「放心から生ずる有意注意力の欠如」という心理現象なので、この心理現象が精神生命の内容に発生すると、心のもつ応変可能な自在性という大切なものが委縮される。これもとどのつまりは精神生命内に内在する一種の報償作用なので、そうなると当然、心の働きが萎縮的になって、さらに心身相関の結果として、自然と肉体の活動も消極的な束縛をうけることになる。